作業環境測定を行うべき作業場と測定の種類
2014年6月25日、「労働安全衛生法の一部を改正する法律」が公布されました。その中でも、特に企業に大きな影響を与える改正項目のひとつが、「化学物質に関するリスクアセスメント」の実施義務化です。
リスクアセスメント実施が義務付けられた673物質の内容は以下をご参照ください。
化学物質による健康障害が問題となった胆管がん事案の発生や、精神障害を原因とする労災認定件数の増加など、最近の社会情勢の変化や労働災害の動向に即応し、労働者の安全と健康の確保を一層充実するため、法律の改正が行われました。改正項目は以下の6項目です。
化学物質(673物質)に関するリスクアセスメント実施の内容については下表をご覧ください。
内容 | 義務・努力義務 | 施行期日 |
---|---|---|
一定の危険性・有害性が確認されている化学物質による危険性または有害性等の調査(リスクアセスメント)を実施する 対象物質: 安全データシート(SDS)の交付義務である673物質 |
義務 | 2016年6月 |
リスクアセスメントの結果に基づいて、 1 労働安全衛生法令上の措置を講じる* 2 労働者の危険または健康障害を防止するために必要な措置を講じる** |
1 義務 2 努力義務 |
指示に従わない場合や計画を実施しない場合は勧告、勧告にも従わない場合は企業名を公表する。
* 有機溶剤中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則、鉛中毒予防規則に該当する物質
** 上記以外の物質
参考: 厚生労働省「安全衛生法の一部を改正する法律」(2014年法律第82号の概要)
今回の化学物質に関するリスクアセスメント実施義務化の背景には、印刷会社で胆管がんが発生した事案が影響しています。原因物質だと考えられている1,2-ジクロロプロパンは当時特別規則で規制されていない物質であったため、リスク管理が不十分な状態であり、安全確保のための措置がとられていませんでした。この事案から化学物質のリスクを事前に察知し、労働災害を未然に防止することの重要性を再認識することとなり、化学物質のリスクアセスメント実施は、労働安全衛生法第28条の2により努力義務から義務化へと改正されることとなりました。リスクアセスメント実施に関する対象物質、対象者、実施すべきリスクアセスメントの内容については以下の通りです。
対象物質
リスクアセスメントを実施しなければならない化学物質は、一定の危険性・有害性が確認されている化学物質です。これらの物質は、労働安全衛生法第57条の2および労働安全衛生法施行令第18条の2に基づき、事業者間で譲渡・提供する際に安全データシート(SDS: Safety Data Sheet)の交付が義務付けられていたもので、現在は673物質が該当しています。
化学物質のリスクアセスメント実施
義務にかかる労働安全衛生法改正の概要
対象者
リスクアセスメント実施が義務付けられるのは、業種・規模にかかわらず、上記の対象化学物質を製造し、または取り扱うすべての事業者です。
事業者が対象物質を譲渡または提供する場合に、SDS の交付が義務付けられているのは化学物質の危険有害性情報を適切に伝達するためであり、一方で、リスクアセスメントの実施は、化学物質を取り扱う労働者の安全を目的としており、実施義務を負う事業者は、特に注意して、化学物質の含有状況を掌握しておく必要があります。
実施すべきリスクアセスメント
化学物質のリスクアセスメントとは、化学物質を取り扱う際に生ずるおそれのある負傷・疾病の重篤度と発生の可能性を調査し、労働災害が発生するリスクの大きさを評価するものです。以下は、リスクアセスメントの手順の例です。
リスクアセスメントの手順
STEP
01
リスクアセスメントを実施する担当者を決定する。
STEP
02
リスクアセスメントを実施する単位に区分する。(製造工程、取り扱い工程、取り扱い場所など)
STEP
03
ステップ2の単位区分ごとに使用している「化学物質」を特定する。また、作業内容も把握する。
STEP
04
ステップ2で切り出した取り扱い場所等における労働者を特定する。
STEP
05
ハザード評価の実施
「化学物質」の有害性情報(SDS)を入手し、有害性を格付けし、特定する。
STEP
06
ばく露評価の実施
1.実測値がある場合 作業環境測定値、個人ばく露濃度測定値または生物学的モニタリング値から特定する
2.実測値がない場合化学物質の取扱量、揮発性などの作業環境濃度レベルと作業環境濃度レベルと作業時間、作業頻度などの作業条件とで総合判断する
STEP
07
リスクレベルの決定
I 些細なリスク | II 許容可能なリスク | III 中程度のリスク |
IV 大きなリスク | V 絶えられないリスク | VI 眼と皮膚に対するリスク |
STEP
08
ばく露の防止、または低減するための措置の検討
ステップ7で決定されたリスクレベルに応じた対策を検討する。
STEP
09
ステップ8の検討結果に基づく実施およびリスクアセスメント結果を記録する。
STEP
10
PDCAサイクル
リスクアセスメントを再実施(見直し)する。
化学物質のリスクアセスメントを初めて実施する場合には、困惑する方もおられると思いますが、リスクアセスメントの実施が初めてであっても簡単に実施が可能となるよう、「コントロール・バンディング」と呼ばれる支援ツールが政府より公開されています。このツールを利用すれば、SDSからの危険有害性情報や化学物質の使用量、作業内容等を入力することで簡易的なリスクアセスメントを実施することが可能です。また、今後はこのほかにも簡易的にリスクアセスメントを行うツールが増える可能性がありますので、そちらもご確認ください。
コントロール・バンディングの手順
実施したリスクアセスメントの結果に基づく措置
事業者は、リスクアセスメントを実施した結果を踏まえて、当該化学物質について、労働安全衛生法に基づく特別規則(労働安全衛生規則、特定化学物質障害予防規則、有機溶剤中毒予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則)に講ずべき措置が定められている場合、当該措置を講ずる義務があります。法令に規定がない場合には、リスクレベルが高いと判定したものから優先的に、事業者の判断により必要な措置を講じることが努力義務とされています。
化学物質は、製品の製造またはサービスの提供の際に使用する塗料、接着剤、洗浄剤、殺菌剤等に、広く含有されています。当該化学物質に危険性・有害性がある場合には、深刻な健康障害を引き起こす可能性があります。化学物質の使用量および使用頻度が多い場合、労働者の安全を確保するためにも、化学物質の管理が非常に重要な事項です。
これまで化学物質のリスクアセスメントに馴染みがなかったような事業所においても、以上に述べたリスクアセスメントの一連の手順を把握し、施行に向けての準備にかかる必要があります。
化学物質を使用する企業においては、リスクアセスメントを実施するためには、まず対象となる物質名とそれにかかる規制の調査、確認することが第1歩となります。
当会ではリスクアセスメントに関わる実施支援の準備をしております。どうぞお気軽にご相談ください。